再生の芽
「次期経営計画を作っても全く達成されない!」と経営者の方は嘆いています
代表理事 森井義之
「あなたの会社だけではありませんよ。よくあることで、このため経営者の多くは悩んでおられます。」と言って、私はこの経営者の方を元気づけようとしました。
 これはある銀行の会議室での会話です。銀行から呼ばれ今回の経営者の方のご承諾を得て私が同席することになりました(再生可能性について私が診断した企業だから)。
 会社の名は「A」社といい、経営者の「B」さんが新たな借入金を申し込むために経営資料を持参されて、やや元気のない声で銀行の担当者に説明されているところです。
 銀行の担当者から
「期首に提出された経営計画は全く達成されていませんね。ここ何年間も…」
 と言われたBさんの口から、突然出たのが表題の言葉でした。
 しばらくしてからBさんと話す時間をいただきました。
 Bさんは65,6歳ぐらい。社員50余名の繊維製品の卸業を営んでおります。
 よく話を聞いていますと、経営計画に対するこの会社の認識に大きな問題点が内在していることに気づきました。私が特に指摘しアドバイスした3点についてそのポイントをここに挙げます。

【1】経営計画は、会計事務所で作成されていた
 Bさんの考え方は、社員の作った計画には自分たちの都合が入るから信用が出来ない。会計事務所で作ってもらえれば第三者から見た有るべき目標値であるから、これに向かっていけば業績は良くなるはずだ、と言うのです。
(アドバイス)
 社員は自覚しながら作った計画ではないために、計画数値の算定理由や構成内容が全く理解されず、会計事務所から押しつけられたもの、としか受け取られないでしょう。
 この目標値は他人事としか思われず、積極的な達成意欲は出ません。
 認識についての問題点は、会計事務所で作った計画書は「第三者から見た有るべき目標値」だとしているところです。
 経営成果の原因は、会計事務所の中にあるのではなく、社員が働いている現場の中にあるのです。従って遠く離れた会計事務所からではなくて、現場の中から作り上げた計画にこそ社員は納得し社員から支持されるのです。これが一般に言われる「計画数値の共有化」に繋がり、社員の中に関心が生まれるのです。
 経営計画の作成の仕方を、会計事務所から指導を受けることはよいことです。しかし作成するのは会社自体でなければ「みんなの計画」的な親しみがわいてきません。
 人間皆に、自己実現欲求という欲求を潜在的に持っていると言われます。その「挑戦してみたい」「自分の力を発揮し実現してみたい」という欲求が満たされる社風を作り上げることが極めて重要な事であると考えます。
 そのためにはBさん自身の従来の考え方を変えて、社員を経営計画策定に参加させ、
「俺たち自身が作った計画」としての自覚を強く持てるようになったとき、目標達成意欲が出るのです。
 これに加えて、達成した成果に対する人事評価システムを構築することが、もう一方で重要な条件となります。
「目標達成」と「人事評価」、この2つが相まって全体成果に繋がるのです。

【2】計画数値は最終到着地点である、と勘違いされていた
 この認識はむしろ一般的なことかもしれません。しかし私のように企業再生の真っ直中に立っている者から見れば、この企業が行こうとしている先は、 経営計画に表示される1年先やあるいは3年先の姿ではないのです。経営者はもっともっと先の「有るべき姿」を想定して経営しているのです。その「有るべき姿」に確実に早く到達するための戦略の1つとして経営計画があるのです。
 このように経営計画を位置づけて見ると、また新たな考えが出てくるでしょう。
 ここで言うところの「有るべき姿」とは、経営者が求める5年先、10年先あるいは将来実現したい企業の姿を言います。つまり「経営ビジョン」と言われるものです。
経営者は、このビジョンを実現しようと社員の協力を得ながら努力しています。
 経営者が「自分のビジョン」を語ることが経営の目的と方向を明確にします。経営の目的と方向が明確になると言うことは、社員の理解と支持を受けやすい環境を生むことになります。この環境から経営計画達成の機運が進むのです。
(アドバイス)
 経営計画とは、経営者が求めるずっと先の「有るべき姿」に到達するために必ず通らなければならない「通過点」を示すものです。言い換えれば、「有るべき姿」に到達するための途中の当面の通過点を明確にしたものが経営計画である、と言うことになります。
 経営計画が達成されないと言うことは、いつまでたっても当面の通過点を通過できず、依然として「有るべき姿」ビジョンに近づけず低迷していることになります。
 今のBさんに必要なことは、自分の目指すA社の将来像(ビジョン=有るべき姿)を社員に向かって語りかけることです。ビジョンが社員にとっても好ましいものであれば、社員への大きな動機付けとなります。
 この上で経営計画の数値目標は、最終到達点ではなく、将来に向かっての通過点である旨を社員に研修会などを通じて言い続けることが大切です。

【3】過程管理の仕組みが社内に存在していない
「成果は過程から生まれる」と私は強く主張します(PBM経営理論の中核です)。
 仕事の途中=過程における管理の善し悪しが、そのまま成果の善し悪しに表れます。
 仕事の進む過程で、成果に大きく影響する事柄あるいは必ず押さえておかなければならないポイントをシッカリした管理者の下で管理されておれば、成果は必ず出ます。
 過程管理のない経営を「放漫経営」と言いますが、放漫経営から良い成果が生まれることはありません。
(アドバイス)
 前述【1】【2】に沿って策定された経営計画であっても、実際に経営計画に沿って仕事が進んでいるかどうかを適時に管理されていなければ、成果は出ません。
 過程に最大の注意を払わなければならない管理体制を社内に作ることが、計画実施の度合いと計画達成度が事前に分かるようになり、必要に応じて速やかな対応を加えて計画が達成されようになります。
 経営計画は、「有るべき姿」を追求する企業活動の「通過点」を示すものであるから、この通過点を見失ったら会社は低迷するのだ、と社内で機会あるごとに説き続ける努力が必要と考えます。
 通過点を、決まった時に、正しく、あらかじめ計画していた方向から計画していた方向へ流れているか、または動いているか、を管理することが「過程管理」です。

 この話は、今から約3年半前の、暖かい春の光の強い日であったと記憶しています。
 今頃、A社はどうなっているだろうか。
 話をまじめに聞いていただいた社長のBさんは、お元気であろうか。
 などと思い出されます
(2008.10)


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